![]() 『有頂天家族』(森見登美彦/幻冬舎) 「阿呆の血のしからしむるところ」 をモットー!? とした狸・下鴨家を中心に、天狗と狸、そして人間が暮らす京都を舞台に繰り広げられる奇想天外な出来事を綴ったもの。 大天狗(だった)・如意ヶ嶽薬師坊こと赤玉先生の哀愁漂うキャラに笑えます。 そして、もともとは人間で天狗になった玲瓏たる美貌を誇る弁天の奔放ぶりにグッときます。 以前にも触れましたが、本書も森見さんの他の書籍で登場するアイテムが出てきて、楽しめます。『太陽の塔』に登場する叡山電車は、矢二郎だった!? や、『夜は短し歩けよ乙女』の「偽電気ブラン」は彼らがつくっていた!? なんかが明らかになったり、「赤玉ポートワイン」、さらには、「オモチロイ!」といったワードも。 ![]() 『太陽の塔(新潮文庫)』(森見登美彦/新潮社) 森見登美彦氏の『太陽の塔』。2003年の第15回日本ファンタジーノベル大賞受賞作。 主人公は、京都大学の5回生の“私”。ふられた恋人「水尾さん」の研究に没頭しているんですが、本人はストーカー行為とは一線を画すものと否定しています。 そして舞台はクリスマス。浮かれる街のクリスマスファシズムに鉄槌をくだすべく、友人・飾磨が企画した「ええじゃないか騒動」、この始まりから騒動に発展する様が笑えます。 本書で登場し、タイトルにもなっている岡本太郎の「太陽の塔」。この太陽の塔の描写を読んでいると、実際に見て、しかも何度も訪れて、その「コワさ」を味わってみたくなります。 「もう一度、もう二度、もう三度、太陽の塔のもとへ立ち帰りたまえ。バスや電車で万博講演に近づくにつれて、何か言葉に尽くせぬ気配が迫ってくるだろう。『ああ、もうすく現れる』と思い、心の底で怖がっている自分に気づきはしまいか。そして視界に太陽の塔が現れた途端、自分がちっとも太陽の塔に慣れることができないことに気づくだろう」 この後に、『有頂天家族』を読んだんですが、ここで出てくる「叡山電車」の正体!? が見られて楽しめました。 ところで、友人・飾磨が頭の中に携帯している分布地図は、ドトールや、コンビニ、カフェ、本屋、居酒屋などで、「自分の中にもあるかも!?」と思いました。 「彼は中央食堂のレジの有田さんとか、ケンタッキーフライドチキンの三田村さんとか、バプテスト眼科クリニックの仁川先生とか、注目に値する女性の居場所を網羅した分布地図をつねに頭の中に携帯していた。それは判例と法理に明け暮れる彼の大切な息抜きであった」
本題に戻ると、この『四畳半神話大系』は、最後の第四話は秘密機関「福猫飯店」に入ったパターンが描かれるのですが、この章はさらに、第一話から続いてきた平行世界がひとつにつながった領域・“四畳半世界”へと足を踏み入れます。
「ほんの些細な決断の違いで私の運命は変わる。日々私は無数の決断を繰り返すのだから、無数の異なる運命が生まれる。無数の私が生まれる。無数の四畳半が生まれる」 『夜は短し歩けよ乙女』は傑作でしたが、本書も個人的にかなりのお気に入り作品となりました。これを読んで森見作品にもっと触れたくなり、『太陽の塔』、『有頂天家族』を立て続けに読破しました。 ![]() 『四畳半神話大系(角川文庫)』(森見登美彦/角川書店)
前回と同様、ちょっと『四畳半神話大系』の話自体からは離れるんですが、森見さんの各作品には、それぞれ共通の人物、アイテムが出てきます。
樋口&羽貫さん(『夜は短し歩けよ乙女』)、下鴨幽水荘(『夜は短し~』『太陽の塔』)、猫ラーメン(『太陽の塔』)、映画サークル「みそぎ」(『夜は短し~』)、峨眉書房も出てきたし、超高性能亀の子束子、さらには「ジョニー」! も。 また、思わず「くすっ」と笑ってしまうワードもちりばめられていて、お気に入りです。樋口師匠から受け継いだ「自虐的代理代理戦争」や、『夜は短し~』『有頂天家族』の「偽電気ブラン」や、『有頂天家族』ではさらに、「偽如意ヶ嶽」、「偽叡山電車」、「偽寺町通」と“偽”のオンパレードに笑ってしまいます。 つづく ![]() 『四畳半神話大系(角川文庫)』(森見登美彦/角川書店)
森見さんの描く作品の登場キャラがそれぞれ魅力的なんですよね。
「貢ぎ物」で食生活をまかなっているものの、決して卑屈にならない樋口師匠や、“妖怪”・小津、のちに触れる『有頂天家族』の如意ヶ嶽薬師坊こと赤玉先生や、弁天などなど。 ところで、角川文庫の創刊60周年記念企画の「今月の角川文庫編集長フェア」第9回は森見さんが編集長で、『夜は短し歩けよ乙女』についてのインタビューも掲載されているんですが、これを読んだときに、今まで誤解した見方をしていたことに気づきました。 > 姉から授かったという「おともだちパンチ」にやられてしまいました。 > > ……とは言っても、まだ主人公の黒髪の乙女の描き方にひっかかるものがありました。 > > 自分が今まで読んでいる小説の著者を見てみると、圧倒的に女性の方が多いんですが、 > それは、女性の心理描写にオトコのフィルターがかかっていたりすると > なんとなくさめてしまうことがあるからです。 > > 物語は2人の視点で進むんですが、この黒髪の乙女の描写に > なんとなくフィルターがかかっている感じがして、こんなオンナはいないだろう、 > と思ったんです。 > > でも、読みすすめていくうちそんなのどうでもよくなってきました。 > この彼女がなんともキュートな感じを醸し出していて、 > フィクションでええじゃないか、と思ってしまいました。 と以前、『夜は短し歩けよ乙女』についてこんな感想を書いたんですが、この森見さんのインタビューを読んで、「そういうことだったのか」とはじめて理解できました。 「ただ、単行本を出した際に、『男は所詮こんな女が好きなのね』みたいな感じの感想もちらほらあったのですが、自分としては、『いやあ、それとはちょっと違うんだけどなあ』とは、ぜひ言っておきたいです(笑)。『黒髪の乙女』が理想というのではなく、今どきの大学生とも思えないような、あからさまに純真すぎる女の子が特に危険な目にも遭わず、なんとなく楽しげに過ごせるような世界全部が――樋口さんも羽貫さんも李白さんも含めて――僕の理想なんです。だから『黒髪の乙女』もあわよくば自分がそうなりたいと思う人物なわけで、それをこの小説では書きたかったんです」 と、森見さん自身の理想だったのか、と。 つづく ![]() 『四畳半神話大系(角川文庫)』(森見登美彦/角川書店)
で、物語は四篇それぞれ、別の道を歩んでいるにもかからわず、唾棄すべき親友・小津をはじめとして、明石さん、樋口師匠、さらには、戦国武将の妻のような覇気漲る顔をもつ羽貫さん、城ケ崎先輩、相島先輩、さらには「香織さん」、「もちぐま」までが出会う運命の中に組み込まれています。
どのサークルにも属していて、神出鬼没で登場する小津が笑えます。 ただ、笑いながら読みつつも、「どんな道を選択しても着地点はそれほど変わらず、出会う人とは出会うのかも」という深遠!? な気持ちにさせられます。 ときどき、主人公と小津がそれを暗示するセリフを交わしたりします。 「どうせあなたはどんな道を選んだって、今みたいなありさまになっちゃうんだ」 「あなたはどんな道を選んでも僕にあっていたと思う」 「おい、俺たち、前にもこんな言い合いしてなかったか」 つづく ![]() 『四畳半神話大系(角川文庫)』(森見登美彦/角川書店)
前回言ったように、同じ文章が繰り返される個所があって、最初はびっくりしたんですけど、これが、2回目、3回目と読んでいくと、笑ってしまいますし、また、「この篇でも、あの文章、セリフが出てこないかなぁ」と期待するようになってきます。
まず、出だしの部分がまったく同じで、「光源氏の赤子時代もかくやと思われる……」のくだりや、唾棄すべき親友・小津の紹介のくだり「夜道で出会えば、十人中八人が妖怪と間違う……」が登場するたびに笑ってしまいます。 さらに、占い師の老婆の禅問答のようなお告げや、「ふっふーん」といった鼻息や、そして何よりもマドンナ・明石さんの「ぎょええええ」の悲鳴と、「くっついてませんかくっついてませんか」の2回繰り返すワードは、出てくるのを心待ちにしてしまいます。 つづく ![]() 『四畳半神話大系(角川文庫)』(森見登美彦/角川書店)
主人公は京大3回生の男子学生。「バラ色のキャンパスライフ」を夢見ていたのに、2年間を無為に過ごしてしまったと回顧するところから始まります。結論を言ってしまうと、この物語は、主人公・“私”が、もしも別の選択をしていたらどうなっていたのか、と、運命の分かれ目!? となる1回生の春のサークル選びのシーンに立ち返って、四篇、それぞれ展開されていきます。
第一話は、映画サークル「みそぎ」に入ったケース、第二話は、「弟子求ム」のビラに誘われ火口師匠に弟子入りした日々を綴ったケース、第三話は、ソフトボールサークル「ほんわか」に、そして、第四話は、秘密機関「福猫飯店」に所属したケースでそれぞれ物語が成り立っています。 なので、四篇それぞれ、出だしや、ところどころの文章がまったく同一の個所が存在します。この構成をまったく予期していなかったので、第一話を読み終えて、第二話を読み始めたときに。「あれっ? この文章、どこかで読んだような……」とデジャブ感を味わい、びっくりしました。 つづく ![]() 『四畳半神話大系(角川文庫)』(森見登美彦/角川書店)
『夜は短し歩けよ乙女』は傑作でした。でも傑作だからこそ、同じ作者の他の本をもっと読みたいとなるのではなく、読めないということがたまにあります。
他の本を読んで、あの面白いテイストは1作品だからなりたったのか、などたまにガッカリしてしまうことがあり、その感覚を味わいたくなくて。 というわけで、森見さんの『夜は短し歩けよ乙女』以外の本を読んでなかったんですが、yuさんに借りたので読んでみました。 ちょっとでもうたがったりしてすみませんでした……。すごく好きな作品でした。 ![]() 『四畳半神話大系(角川文庫)』(森見登美彦/角川書店) 『夜は短し歩けよ乙女』は、人のみならずアイテムたちが物語内でことごとくつながっていて、それらの心地よさや、「オモチロイ」「なむなむ!」なんてコトバも好きだったんですが、この本にもそれら魅力が存分に発揮されています。こっちの本のほうが、『夜は短し歩けよ乙女』より先の作品なので、原型といえるものを見ることができます。 つづく < 前のページ次のページ >
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